冒頭まとめ
context deadline exceeded は、Docker が独自に定義したエラーではありません。Docker が書かれている Go 言語の標準の仕組みが返す、時間切れを表すエラーです。Go のソースでは、この文字列を返す値が定義されており、時間切れかどうかを尋ねると真を返すことも明記されています。つまりこの文言が伝えているのは「何かの締め切りに間に合わなかった」という事実だけで、どこの締め切りかは書かれていません。だからこそ、締め切りの持ち主を特定しないまま設定をいじると、直らないまま時間だけが過ぎます。
特定の手がかりは、文言の末尾です。3通りあります。
括弧が何も付かず context deadline exceeded だけの場合、切れたのは呼び出し側が設定した締め切りです。末尾に (Client.Timeout exceeded while awaiting headers) が付く場合、クライアント自身の制限時間が、応答の見出し部分が届く前に切れています。末尾が (Client.Timeout or context cancellation while reading body) の場合、見出しは届いており、本体の転送の途中で切れています。この2つの接尾辞は、Go の HTTP の実装の中でそれぞれ別の場所に定義されており、付く条件も違います。前者なら接続・名前解決・プロキシ・相手の無応答を、後者なら転送速度と転送量を疑う、という具合に、見るべき場所が変わります。
もう1つ、先に否定しておくべき助言があります。「COMPOSE_HTTP_TIMEOUT を大きくする」という案内が今も多く見つかりますが、Docker Compose の公式文書には「Compose V2 では効果がない環境変数」という一覧があり、この環境変数はそこに挙げられています。設定しても何も変わりません。
境界も引いておきます。context canceled は時間切れではなく取り消しで、別のエラーです。Go のソースでも別の値として定義されています。
エラーの概要
実際に見かける形を並べます。まずイメージの取得で出るもの。
Error response from daemon: Get "https://registry-1.docker.io/v2/":
context deadline exceeded (Client.Timeout exceeded while awaiting headers)
次にビルドで出るもの。
failed to solve: example:1.0: failed to resolve source metadata:
context deadline exceeded
そして転送の途中で切れたもの。進捗が途中まで進んでから止まるのが特徴です。
example 23.80 MiB / 70.32 MiB [=========>--------] 33.85% 19s
context deadline exceeded (Client.Timeout or context cancellation while reading body)
3つ目の形は、ネットワークが切れているのではなく、転送が終わる前に締め切りが来たことを示します。進捗の数字が出ているなら、相手には届いていて、通信も成立していた、ということです。
なお Go の定義では、このエラーは時間切れであると同時に「一時的」とも申告します。再実行で通ることがあるのはこのためですが、締め切りの側が短すぎる場合は何度やっても同じところで切れます。リトライで解決するかどうかは、進捗の位置が毎回同じかどうかで見当が付きます。
まず最初に:末尾の括弧を読む
第一に、context deadline exceeded の直後を見ます。何も付いていないなら、Docker やその周辺のソフトウェアが自分で設けた締め切りです。この場合、ネットワークの設定を触っても意味がないことがあります。
第二に、while awaiting headers が付いているなら、相手からの最初の反応が返ってきていません。名前解決、プロキシ、経路、相手側の停止を順に確認します。
第三に、while reading body が付いているなら、通信は成立し、転送が始まっています。疑うのは速度と量です。大きなイメージを細い回線で取得している場合が典型です。
第四に、進捗表示があれば、切れる位置を2回以上見比べます。毎回ほぼ同じ位置・同じ秒数で切れるなら、締め切りが固定されている証拠です。毎回違う位置なら、回線側の不安定さを疑います。
よくある原因と解決手順
原因1:応答の見出しが返る前に切れている
末尾が while awaiting headers の場合です。順に確認します。
まず、名前解決と到達性を Docker の外から確かめます。
nslookup registry-1.docker.io
curl -sI --connect-timeout 10 https://registry-1.docker.io/v2/ | head -3
ここで止まるなら、Docker ではなくネットワーク側の問題です。手元では通るのに Docker からは通らない場合は、プロキシの設定が Docker に渡っていない可能性が高くなります。利用者の環境変数を設定しても、常駐している側には届きません。
Before(自分の環境変数にだけ設定している):
export HTTPS_PROXY=http://proxy.example.com:8080
docker pull example:1.0
# → 常駐側は proxy を知らないままなので変わらない
After(常駐側の設定として渡す):
sudo mkdir -p /etc/systemd/system/docker.service.d
sudo tee /etc/systemd/system/docker.service.d/proxy.conf > /dev/null <<'EOF'
[Service]
Environment="HTTP_PROXY=http://proxy.example.com:8080"
Environment="HTTPS_PROXY=http://proxy.example.com:8080"
Environment="NO_PROXY=localhost,127.0.0.1"
EOF
sudo systemctl daemon-reload
sudo systemctl restart docker
設定が効いているかは、次で確認できます。
docker info | grep -i proxy
原因2:本体の転送の途中で切れている
末尾が while reading body の場合です。通信は成立しているので、プロキシや名前解決を触っても直りません。
Docker 側で調整できるのは、同時に取得する数と、取得の試行回数です。moby のソースでは、同時取得数の既定が3、取得の試行回数の既定が5と定義されています。細い回線では、同時数を減らしたほうが1本あたりの速度が上がり、結果として締め切りに間に合うことがあります。
{
"max-concurrent-downloads": 1,
"max-download-attempts": 10
}
この内容を /etc/docker/daemon.json に置き、常駐している側を再起動します。設定を変えたら、実際に反映されているかを確認してください。
docker info | grep -i "concurrent"
これで直らない場合、締め切りは Docker のものではなく、呼び出している側のソフトウェアのものです。後述の Editor’s Note の例がこれにあたります。
原因3:Compose での時間切れ
Compose の実行中に出た場合、COMPOSE_HTTP_TIMEOUT を上げるという助言は使えません。公式文書に、Compose V2 では効果がない環境変数として明記されています。この環境変数は、Python で書かれていた古い Compose の時代のものです。当時の時間切れの文言は An HTTP request took too long to complete で、今の文言とはそもそも別物でした。
Before(効かない環境変数を設定する):
export COMPOSE_HTTP_TIMEOUT=300
docker compose up -d
After(同時実行数を絞る):
export COMPOSE_PARALLEL_LIMIT=1
docker compose up -d
COMPOSE_PARALLEL_LIMIT は、常駐側への同時呼び出しの上限を指定する環境変数として公式文書に載っています。一度に多くのコンテナを起動しようとして詰まっている場合は、これで収まることがあります。
なお、環境変数は書き出さないと Compose に渡りません。設定したのに変わらない場合は、export を忘れていないかを確認してください。
原因4:ビルド中に出た
failed to solve に続いて出た場合、時間切れが起きたのはビルドを担当する仕組みの側です。failed to resolve source metadata が付いていれば、土台となるイメージの情報をレジストリへ問い合わせる段階です。原因1と同じ経路の問題を疑います。
ビルドの途中で、コンテナの中から外部へ出る通信が時間切れになる場合は、別の話です。この場合は、ビルドの際にプロキシの設定を渡す必要があります。
docker build \
--build-arg HTTP_PROXY="$HTTP_PROXY" \
--build-arg HTTPS_PROXY="$HTTPS_PROXY" \
--build-arg NO_PROXY="$NO_PROXY" \
-t example:1.0 .
どちらの段階で切れているかは、出力のどこで止まったかで分かります。土台の取得の段階か、命令の実行の途中かを先に見てください。
補足:似ているが別のもの
context canceled は取り消しで、時間切れではありません。Go のソースでも別の値として定義されています。利用者による中断や、上位の処理が畳まれたことによる巻き添えで出ます。締め切りを延ばしても意味がありません。
dial tcp <アドレス>: i/o timeout は、接続そのものが確立できずに切れた形です。相手のアドレスには到達しようとしているが、応答がない状態を指します。proxyconnect tcp: が前に付いていれば、プロキシへの接続で止まっています。
HTTP の状態コードとして返る時間切れは、また別です。Docker の応答に 504 が現れた場合の切り分けは別記事にあります(Docker の 504 の記事)。取得の頻度が多すぎて弾かれている場合は、時間切れではなく制限です(Docker の 429 の記事)。常駐側そのものに繋がらない場合は、時間切れの前に Cannot connect to the Docker daemon として現れます(Docker の 500 の記事)。
切り分けの順序
- 文言の末尾を読む。括弧なし、
while awaiting headers、while reading bodyのどれかを確定させる。 - 進捗表示があれば、切れる位置を2回以上見比べる。同じ位置なら締め切りが固定、違う位置なら回線の不安定さを疑う。
while awaiting headersなら、Docker の外から名前解決と到達性を確かめる。外から通るならプロキシ設定が常駐側に渡っているかを確認する。while reading bodyなら、同時取得数を減らし、試行回数を増やす。それでも同じ位置で切れるなら、締め切りの持ち主は Docker ではない。- Compose なら、
COMPOSE_HTTP_TIMEOUTは効かない前提で考える。同時実行数を絞る方向を試す。 failed to solveが付いていればビルド側。土台の取得か、命令の実行中かを出力の位置で見分ける。context canceledは別物として扱う。締め切りの調整では直らない。
確認コマンド集
# 1. Docker の外から到達性と名前解決を確認する
nslookup registry-1.docker.io
curl -sI --connect-timeout 10 https://registry-1.docker.io/v2/ | head -3
# 2. 常駐側に渡っているプロキシ設定を確認する
docker info | grep -i proxy
# 3. 同時取得数と試行回数の現在値を確認する
docker info | grep -i "concurrent"
# 4. 取得の様子を詳しく見る(切れる位置を確かめる)
docker pull --debug example:1.0
# 5. 常駐側の記録を見る(Linux)
journalctl -u docker --since "10 min ago" | tail -40
# 6. コンテナの中から外部への到達性を確かめる
docker run --rm alpine sh -c "nslookup registry-1.docker.io; wget -S -O /dev/null https://registry-1.docker.io/v2/"
Editor’s Note
締め切りの持ち主を取り違えると何が起きるかを示す実例として、開発環境を提供する ddev という道具に残る記録があります(Timeout upgrading docker-compose after upgrading ddev to 1.24.5 on slower networks)。2025年5月、この道具を 1.24.5 に上げたところ、起動のたびに約70メガバイトのファイルの取得が途中で止まり、context deadline exceeded (Client.Timeout or context cancellation while reading body) で失敗するようになった、という報告です。
読みどころは、参加者が書き残した数字です。ある人は1.62パーセント、18秒で停止。別の人は33.85パーセント、19秒で停止。位置は違うのに、秒数がほぼ揃っています。別の参加者が「20秒の固定値は不自然だ」と書いているとおり、原因は回線ではなく、道具の側に新しく入った固定の締め切りでした。実際、この問題は次の版で修正されています。
もし文言の末尾を読まずに対処していたら、名前解決を変える、プロキシを疑う、常駐側を再起動する、といった作業に時間を使ったはずです。しかし while reading body は「相手には繋がっていて、転送が始まっている」と告げていました。この一言が、疑うべき場所をネットワークから呼び出し側へ移してくれます。
context deadline exceeded は、それ自体には何の情報もないエラーです。しかし括弧の中と、切れる位置と秒数を並べれば、締め切りの持ち主はかなり絞り込めます。設定を変える前に、まずそこを読んでください。
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