冒頭まとめ
docker compose の実行中に現れる 429 Too Many Requests は、ほぼ例外なく Docker Hub の pull 回数制限です。制限そのものの仕組み(匿名は IP 単位、認証済みはアカウント単位)は Compose に固有の話ではありません(Docker の 429 の記事)。
Compose に固有なのは、同じ作業でも要求の回数と同時実行数が増えやすいという点です。増幅の要因は3つあります。
1つ目は並列度です。公式のリファレンスによれば、--parallel の既定値は -1、つまり無制限です。15 サービスの構成なら、15 件の取得要求がほぼ同時に飛びます。
2つ目はタグです。公式文書には、既定の missing という方針であっても latest タグだけは常に取得される、と明記されています。実装を読むと、手元にイメージがあるかを判定する関数が、タグが latest のときは「無い」と扱う作りになっています。image: nginx のようにタグを省略した記述は latest を指すため、up のたびにレジストリへ問い合わせが行きます。
3つ目は取得方針です。pull_policy: always や docker compose up --pull always を使っていると、手元にあっても毎回取得します。
さらに、Compose の取得処理には再試行の仕組みがありません。制限に当たれば、その場で失敗します。
したがって対処の順序は、上限を増やすことではなく、この3つの増幅要因を減らすことから始まります。
エラーの概要
docker compose pull や docker compose up の実行中に、次の形で現れます。
[+] Pulling 3/5
✔ redis Pulled
✘ web Error toomanyrequests: You have reached your pull rate limit.
You may increase the limit by authenticating and upgrading: ...
✘ api Error toomanyrequests: You have reached your pull rate limit.
Error response from daemon: toomanyrequests: You have reached your pull rate limit.
注目すべきは、複数のサービスが同時に失敗する点です。単発の docker pull なら1件で終わるところが、並列に走っているため、残り枠を一気に使い切ってまとめて弾かれます。
レジストリ側の応答そのものは 429 ですが、Compose の表示には状態コードの数字が出ないことがあります。toomanyrequests の文字列が、429 であることの目印です。
なお、この文言を出しているのは Compose ではありません。取得処理は Docker Engine の中で行われ、Compose はそれを依頼して進捗を表示しているだけです。この構造は、あとの対処の方向を決めます。
まず最初に:Compose 側の3点を確認する
第一に、同時に何件失敗したかを見ます。複数なら並列度が効いています。
第二に、記述しているタグを確認します。省略していれば latest であり、毎回取得の対象です。
第三に、pull_policy と --pull の指定を確認します。always になっていないか。
第四に、認証状態を確認します。ただしこれは Compose ではなく Engine 側の設定です。docker login の有無で決まります。
よくある原因と解決手順
原因1:並列度が無制限のまま
公式リファレンスに、--parallel は同時に実行するエンジン呼び出しの上限を指定するもので、既定値は -1(無制限)だと明記されています。あわせて、COMPOSE_PARALLEL_LIMIT という環境変数でも同じ指定ができること、コマンド行で明示した場合は環境変数が無視されることも書かれています。
Before(無制限のまま実行する):
docker compose pull
# → 全サービス分の要求がほぼ同時に飛ぶ
After(同時実行数を絞る):
docker compose --parallel 1 pull
# または
export COMPOSE_PARALLEL_LIMIT=2
docker compose pull
公式リファレンスにも、--parallel 1 を付ければイメージを1つずつ取得する、という説明があります。この指定は取得だけでなく構築の同時実行数にも効きます。
並列度を下げても、消費する回数の合計は変わりません。効くのは、残り枠がわずかなときに全滅を避けられる点と、共有 IP の環境で瞬間的な集中を作らない点です。
原因2:latest タグで毎回取得している
これが最も気付きにくい要因です。公式文書には、missing の方針でも latest タグは常に取得される、と例外として明記されています。実装でも、手元のイメージと照合する処理が、タグ付きのイメージについては「手元にあり、かつタグが latest でない」場合にのみ既存と判定します。
Before(タグを省略する):
services:
web:
image: nginx # latest を指す。毎回取得される
cache:
image: redis:latest # 同上
After(タグを固定する):
services:
web:
image: nginx:1.27-alpine
cache:
image: redis:7.2
タグを固定すると、手元にある限りレジストリへの問い合わせが発生しません。回数の削減としては最も効果が大きく、同時に構成の再現性も上がります。
原因3:取得方針が毎回取得になっている
pull_policy: always を指定している場合、あるいは docker compose up --pull always を使っている場合です。up の --pull の既定値は policy で、これは構成ファイルに書かれた方針に従うという意味です。
更新を取りこぼしたくないという意図で always にしている場合、公式文書が用意している中間の選択肢が使えます。
services:
web:
image: nginx:1.27-alpine
pull_policy: daily # 24時間以上経っていれば確認する
api:
image: example/api:v2
pull_policy: every_12h # 週や日、時間、分の組み合わせで指定できる
daily は前回の取得から24時間以上、weekly は7日以上経過している場合にのみレジストリを確認します。every_<期間> は任意の間隔を指定できます。毎回取得と一切取得しないの二択ではない、という点を押さえてください。
原因4:認証していない
匿名の枠は IP 単位で数えられるため、同じ回線を使う全員で共有します。認証するとアカウント単位に変わります。
ここで重要なのは、認証は Compose の設定ではないことです。取得は Engine が行うため、docker login で Engine に資格情報を渡します。構成ファイルに書く項目はありません。
docker login
docker compose pull
自動化の中で実行する場合は、取得の前に一度 docker login を挟みます。Compose のコマンドを工夫しても、認証されていなければ枠は増えません。
原因5:どのサービスが原因かを切り分けられていない
多数のサービスがある構成では、どのイメージが枠を消費しているのか把握しづらくなります。
docker compose pull には、取得できるものだけ取得して失敗を無視する指定があります。切り分けの際に有用です。
# 失敗を無視して、取得できたものと落ちたものを一覧で見る
docker compose pull --ignore-pull-failures
# 方針を明示して、手元にあるものは取得しない
docker compose pull --policy missing
構築対象のイメージを除外する指定もあります。ベースイメージの取得は構築の側で発生するため、取得と構築のどちらで枠を使っているかを分けて考える必要があります。
補足:似ているが別のもの
制限そのものの数え方、枠の単位、ミラーによる回避は Docker 全体に共通する話です(Docker の 429 の記事)。本記事は Compose 側で調整できる部分に絞っています。
認証情報が無効な場合や、権限の無いレジストリを指している場合は 429 ではなく 401 や 403 になります。toomanyrequests の文字列が無ければ、回数の問題ではありません。
同じ回数制限でも、Kubernetes 経由では Pod の出来事として現れ、調べる場所が変わります(Kubernetes の 429 の記事)。
構成内のサービスが返す 429 は、これらとは無関係です。コンテナの中のアプリケーションが自分でレート制限を実装している場合、原因はそのアプリケーション側にあります。応答がレジストリからなのか、コンテナからなのかを最初に分けてください。
起動後の応答が返らない場合は 500 や 503 の系統です(Docker Compose の 500 の記事、503 の記事)。
切り分けの順序
toomanyrequestsの文字列があるかを確認する。無ければ回数の問題ではない。- 同時に何件失敗したかを見る。複数なら並列度が効いている。
- 記述しているタグを確認する。省略や
latestは毎回取得の対象。 pull_policyと--pullを確認する。alwaysなら中間の方針に変える。docker loginの有無を確認する。Compose 側ではなく Engine 側の設定。--parallel 1で同時実行数を絞り、再現するかを見る。--ignore-pull-failuresでどのイメージが落ちているかを一覧化する。- 取得と構築のどちらで枠を使っているかを分ける。
確認コマンド集
# 1. 同時実行数を1にして取得する(切り分けと緩和を兼ねる)
docker compose --parallel 1 pull
# 2. 環境変数でも指定できる(コマンド行の指定が優先される)
export COMPOSE_PARALLEL_LIMIT=2
# 3. 失敗するイメージを一覧化する
docker compose pull --ignore-pull-failures
# 4. 構成が実際に参照しているイメージとタグを確認する
docker compose config --images
# 5. latest を指しているサービスを洗い出す
docker compose config --images | grep -E ':latest$|^[^:]+$'
# 6. 手元にあるイメージと突き合わせる
docker image ls --format '{{.Repository}}:{{.Tag}}'
# 7. 認証状態を確認する(Engine 側の設定)
docker login
docker system info | grep -i username
# 8. 残り回数を確認する(Docker Hub の応答ヘッダー)
TOKEN=$(curl -s "https://auth.docker.io/token?service=registry.docker.io&scope=repository:ratelimitpreview/test:pull" | sed -E 's/.*"token":"([^"]+)".*/\1/')
curl -sI -H "Authorization: Bearer $TOKEN" \
https://registry-1.docker.io/v2/ratelimitpreview/test/manifests/latest | grep -i ratelimit
Editor’s Note
Compose で 429 に当たると、Compose 側の不具合を疑いたくなります。実際、そのように報告された記録があります(Rate limit hit with docker compose)。2024年11月、Compose での配備時に Docker Hub の回数制限に当たるようになった、という内容です。報告者は、同じイメージを単発で取得しても失敗すること、より頻繁に取得している別環境では問題が起きないことを挙げ、Compose との関連を疑っています。
返答は明快でした。関連は無い、取得は Engine の中で行われ、Compose のようなクライアントは Engine に取得を依頼して進捗を報告するだけで、その中身を制御していない、というものです。そのうえで、自動化の中で最初に docker login を実行するのが枠を増やす簡単な方法だ、と案内されています。
この説明は正確ですが、そこで話を終えると半分を取りこぼします。Compose は取得の中身を制御しませんが、「何件の取得を、いくつ同時に依頼するか」は制御します。並列度の既定が無制限であること、latest タグが毎回の取得対象になること、取得方針が always なら手元にあっても取りに行くこと。これらはすべて Compose 側の設定で決まります。
同じ報告の中で参照されている別の相談には、「取得していないのに制限に達した」という趣旨の題名が付いています。心当たりが無いのに枠が減っていく感覚は、latest タグの扱いを知ると腑に落ちます。手元にあるから取りに行かないはずだ、という前提が成り立っていないためです。
429 に当たったら、まず認証する。これは正しい第一歩です。そのうえで、構成ファイルのタグを見てください。枠を静かに消費していた原因は、たいていそこにあります。
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